2012年5月31日木曜日

資格コラム:人生、見透せるようじゃ


 思い込みというのは、ごく自然に積み重なっていくらしい。日々思ったことや、見聞きしたことは、次第に当然のように思い始めてくる。たとえば、ライフプランなる言葉である。

 ライフプランとは、有体に言うなら人生計画や生涯設計であるが、漢字で書くと目新しくないので、カタカナの英語表記をしているのだろう。先々・将来を10年、20年、30年、40年と10年ごとに区切って、それぞれの10年を、自分や家族の年齢を1年ごとに区切っていく。

 そして、個々の年歳ごとのイベントや出来事を書き込み、予想される資金需要を計算して、前もって手当をしていくといった作業である。先のことを全く考えずに生きていくのに比べれば、実に堅実で、計画的で、如才がない。わたしが大学にいけたのも、ひとえに母のプランニングの成果であった。


私が欲しかったことがしたいときに。

 しかし、何か大事なことが欠けているように思える。また、敢えて見ようとしないもの、無視していることがあるように感じる。どぎつく言えば、虚構めいたものをはらんでいる気がしてならないのである。まあ、ライフプランなんてものは、主に保険を売るための方便であるから仕方がない面もある。プランニングの後には、新しく入り直す横文字保険会社のパンフレットが送られてくるだろう。


伯爵の公爵を歌った曲

 そもそもプランなんてものは、偶然起きることや偶発的な事象を、無視した上で作られるものである。逆を言えば、計画など、天災や災害といった偶然や事件事故など偶発めいたことを除外しない限りは立てられない。ライフプランに感じる「虚」めいたことは、何ともならない物事を省いた上で、作り上げられたものだからであろう。
 
 わたしたちは、偶然的なもので人生が左右されることを知っている。隣で寝ている人は、計画と予定のもとで出会い、池に落ち、愛を育んだのかといえば、そうではない。出会うことを前もって知っていたのなら避けたであろう。地縁・血縁、上司の縁、仲間の縁も、いわば偶然であるし、もっと突き詰めれば、生まれたことも極論すればたまたまである。わたしたちは、そういうもので あり、そういう事情下にあることを、改めて知っておくべきであろう。


"どのように甘いイエス·キリストの名"

 ところで、年齢論・年代論なる出版物のカテゴリがある。本屋に行けば、「20代でしておく○個のこと」とか、「30代でやっておく?のこと」とか、40代、50代で云々かんぬんと、年代ごとの有り様や経験すべきことを教える本がいっぱいある。年齢論や年代論は、遠く孔子の論語まで遡るから、よほど人の世に求めがあるのだろう。

 年齢・年代ごとの有名人なりタレント、芸能人、政治家、企業家・経営者、スポーツ選手にインタビューして文字に起こせば、それで一冊となる。インタビューの対象者と年齢論・年代論の両者に市場が被るから、出版として優良商品である。

 しかし、単に好まれているから、参考になるから、年齢論・年代論の本が売れるのではなかろう。背景には単純に、購入者がその歳なり年代になるのを少しも疑っていない点にある。「○才までにしておくべきこと」など、その『○才』まで生きられることを前提としない限り、成立しない。当たり前のように、自分はこのまま生きると思い込んでいるから、かの人生のお手本が素朴に読まれるのである。


 わたしたちが、先のことについて考え手を打っていく、あーしてこーする一連の作業は、人間の持つ知性の1つではある。しかし、何かを知ることは、何かを知らなくなること、知ろうとしなくなることでもある。今後のことを考え、論者や識者の予想を引用し、統計的な数字をもってきて、己に当てはめ、自分はこうなると素朴に思っている。そして、安心もしている。先が何かで埋まれば、安心なのか。悪く言えば、手前味噌な未来像を作って悦に入るようなことになってはないだろうか。


 予想も付かないトラブルが起きたときに、人の真性が垣間見える。大人になるというのは、偶然に耐えることである。わたしたちは、日々変ってきたし、日々変ってきた。そしえ、これからも日々変っていくだろう。しかし、なぜ変り、どうして変ったのか、その因果はわからない。しかし、この「わからなさ」こそ、個性の源泉であり、生きる原動力であり、人の生の本質であるように思う。偶然起こったことが、その人の人生を変え、元に戻し、そして、拭えない個性を生むことを、わたしたちは直感的に知ってはいないか。偶機という言葉すらある。人生の転機や進展、そして、破滅は、大なり小なり偶然から生じるものである。

 人生、見透せるようじゃダメなのである。(人生、こうだな、こうなるな)なんて見透した気分でいるのは、一種の堕落であり想像力の欠如でもある。人生、わかってたまるかという気持ちもある。わたしたちは、先々を見透してみて、何に備えたのかを自答してみるとよい。古人は、汝自身を知れといった。一寸先は闇でいい。闇があるから新しく光が差すのだ。



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