2012年3月31日土曜日

まちがいなく死んだのに生きている!/ スピリチュアリズム


(1)愛する人との出会い

私、フランチェッツォはいまに至るまで、はるか彼方にあるあの世界≠フ放浪者でありました。地上にいるみなさまは、こうした世界については名前はおろか、その存在さえもよくご存じではないでしょう。

そこで、できるだけわかりやすく、私(すでにあの世界≠フ住人になっています)の体験を述べることにします。それによって、いま地上を生きている方がやがて地上を去るとき、いかなる体験が待ちうけているかを知っていただきたいと思うのです。

そして私の体験が世に明かされることにより、みずから奈落に向かうような生き方を止める人々が出てくることを心から願っています。

私は、十九世紀半ばのイタリアに、貴族の息子 として生まれました。

地上にいたときの私は、いまから思えば自己満足だけを求める傲慢(ごうまん)な人間でした。

精神的にも肉体的にも、能力と天分に恵まれていた私のことを、幼いときから人は素晴らしい、高貴だ、才能があるなどとほめそやしましたが、それをいいことに、人から愛と尊敬を得ることにのみ夢中になり、自分が純粋な気持ちで誰かを愛することなどほとんどありませんでした。

私が愛した(地上の男性は愛の名に値しない情欲もこう呼びますが)女性たちはみな、その魅力で私の気をひこうとしたものです。けれど私は、誰に対しても物足りなさを感じました。欲しいものは何としても手に入れたくなりましたが、いざ手に入れてみるとそれは苦い灰の味しかないのです。満たされない思いを心に� ��えたまま、それが罪であるとも思わずに、私はどれだけ女性たちの心を傷つけたでしょう。

それにもかかわらず、私はたくさんの宴(うたげ)に招かれ、貴婦人方によって甘やかされ、社交界の寵児(ちょうじ)になったつもりでのぼせ上がっていたのです。

そんな心の隙が招いたのか、芸術家を志していたはずの私は、ある日仲間と思っていた男に裏切られ、決定的な過ちを犯してしまいました。自分と他人の名誉を傷つけ、前途あるはずのそれぞれの人生を台無しにしてしまったのです。

その過ちは、生きているときばかりか死んでからさえ、私にずっとついてまわりました。わがままで放蕩(ほうとう)に満ちた人生がもたらす結果は、まだ生きている間でさえ悲惨ですが、霊界においてはそれに倍して悲惨なので� �。過去の過ちや失敗は、すべての過去をあがない精算するまで、ずっと私たちの翼の自由を奪い続けます。

傷心に沈む日々を過ごしていた私は、あるとき一人の女性と巡り会いました。

ああ、それは何と素晴らしい出会いだったでしょう!

私にとって純粋可憐(かれん)な彼女は、ほとんど人間以上の存在に思えました。

そうして「私の善き天使」と名付けた彼女に、「高貴な愛」という次元から見れば貧相で自己中心的なものではありましたが、私のすべての愛を捧げました。その人生のなかで初めて、私は自分以外の人間のことを真剣に考えるようになったのです。

それまで私が誰かにやさしくしたり、愛する人に寛大であったりしたのは、相手がそのお返しをくれることを期待したからでした。自分の愛情� ��好意は、他人からの愛や尊敬を買うための投資にすぎず、自分の幸せなど考えないで、ただ愛する人の幸福だけを願うような、そんな犠牲的な愛など想像したことすらありませんでした。

けれど、何かが私の中で変わり始めたのです。

彼女の輝くような精神の高みにまで、自分の心を純粋にすることはできませんでしたが、ありがたいことに彼女を自分の側に引きずり降ろそうとはしませんでした。

いつか時が経つにつれ、彼女の世界の明るい太陽に照らされて、自分にはもうないと思っていた至純(しじゅん)の思いをもつまでになったのです。

その一方で、誰かが彼女を私から奪っていくのではという恐怖に怯えていました。ああ、あのころの痛恨と苦悩に満ちた日々!

二人の間に見えない壁をつくったのは 自分であると知ったのです。

俗世(ぞくせ)に汚れた自分は、彼女に触れることさえふさわしくないと感じていたのです。私に対するあの方の深い思いやりとやさしさのなかに、彼女自身も気づいていない愛を読みとることはできても、この世にあるかぎり彼女が自分のものになることなどありえないと感じていたのです。

それで彼女と別れようとしましたが、できませんでした。彼女とともにある幸福、彼女の明るい世界に触れる喜びだけは私にも許されていると思い、それだけで満足しようとしたのです。そのわずかな願いさえ、やがてかなわなくなるとも知らずに。

(2)突然やってきた「死」

ところがやがて、何ということでしょう、あの予想だにせぬ恐ろしい日がやってきました。何の前触れ� ��なく突然、私はこの世から取り去られ、すべての人間が避けることのできない「肉体の死」という深遠(しんえん)に投げ込まれてしまったのです。

初めは死んだということがよくわかりませんでした。

数時間苦しみもだえた後、夢のない深い眠りに落ちました。

やがて目覚めてみると、たった一人で真っ暗闇(くらやみ)の中にいたのです。起きて働くことはできましたので、その直前よりは確かに状態はよくなっているようでした。

だが、いったいこことはどこだろう?

立ち上がって、暗い部屋の中でやるように手探りしてみましたが、まったく光が見えないし、音も聞こえませんでした。ただ、死の静寂と暗黒だけがあたりを包んでいるばかりでした。歩けば扉でも見つけられるだろうと思い、どれほどで しょう、力無くゆっくりと動き手探りし続けました。

数時間もそんなことを続けたでしょうか。私は、だんだん狼狽(ろうばい)し、恐怖さえ募ってきて、どこかに誰かいないのか、とにかくこの場所から抜け出せないか、と必死になりました。

残念なことに、扉も壁も何も見出すことはできませんでした。私のまわりには何も存在しないのです。ただ暗黒のみが私を包んでいたのです。

最後に、とうとう耐えきれなくなった私は大声で叫びました。しかし、いくら金切り声をあげても、誰も答える者はいません。何度も何度も叫びましたが、相変らず静かなままです。

牢獄(ろうごく)にでも入れられたのだろうか?

いや牢獄には壁があるがここには何もない。

精神錯乱? それとも? 自覚ははっきりあ� ��し、感触もある。以前と何も変わらない。本当にそうか? いや、やはり何か変だ。

そうです、はっきりとはわかりませんが、何か全身が縮こまって、いびつになってしまったような感じなのです。

自分の顔はどうか、手で触ってみると何だか大きくなっているようだし、がさつで歪んでいるような。いったいどうなっているんだ?

ああ。光を! どんなにひどい状態でも何でもいいから、とにかくどうなっているのか教えてくれ! 誰も来てくれないのか? まったく一人ぽっちなのか?

そして私の光の天使よ、彼女はどこに? 私が眠りに陥る前、彼女はたしかにそばにいてくれた。いまはどこに?

何かが頭と喉(のど)の中ではじけた感じがしたので、もう一度私の元に来てくれるようにと、彼女の名を大 声で叫びました。

すると、ようやく私の声が響きだしました。そして私の声があの恐ろしい暗闇を通して、こだまとなって返ってきたのです。

はるか遠くに小さな星の光のような点が現われ、少しずつ近づいてきて大きくなり、とうとう私の目の前までやってきました。それは星の形をした大きな光の玉で、その中にあの「いとしい人」の姿を認めることができました。

彼女の目は眠っているように閉じられていましたが、両腕は私のほうに伸びており、やさしい声でこう言っているのがはっきり聞こえました。

「ああ、私の愛する人、あなたはどこにいらっしゃるの? 見えないわ、声しか聞こえないのです。私を呼ぶあなたの声だけが聞えるのです。それで私の心が答えるのです」

私は彼女のほうに駆け出そ� �と思いましたが、だめでした。見えない何かの力が私を引き戻すのです。また彼女の周囲には、私が突き抜けることのできない囲いのようなものがありました。苦しみの中で私は地面の上に崩れ落ち、一人にしないでくれと彼女に哀願(あいがん)しました。

しかし彼女は、気でも失ったように頭をがくりと前に垂れ、誰かの腕に抱かれるようにして、その場を去っていきました。

私は起き上がって彼女の後を追おうとしましたが、無駄でした。大きな鎖でしかっかり繋(つな)がれてでもいるかのように、先に進めないのです。さんざんもがいているうちに意識を失い、地面に倒れたのでした。


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再び目覚めてみると、とてもうれしいことに彼女がそこに戻ってきていたのです。彼女は私の傍らに立っていました。地上にいるときのように見慣れた様子でしたが、青ざめた悲しげな表情で黒い衣装に身を包んでいました。

あの光っていた星は見えず、あたりは暗闇に包まれていますが真っ暗闇ではなく、彼女のまわりはぼんやりと青みがかった光に照らされています。

彼女は白い花を腕に抱いて、新しい土を盛った低い長めの塚の上にかがみ込むようにしていました。

さらに彼女に近づいてみると、その低く盛った塚の上に花を添えながら、声も出さずに涙を流しているのがわかりました。そして、彼女はそっとこうつぶや� �たのです。「ああ、いとしい人、もう戻ってきてはくださらないの? 本当に死んでしまわれたの? もう私の愛の届かないところへ行ってしまわれたの? 私の声さえもう聞くことのないようなところへ? ああ、私のいとしい人!」

彼女はひざまずきました。私はますます彼女に近づいてみました。とはいっても、彼女に触れることはできませんでしたが。

私もひざまずき、その土盛りを見ました。

そのときです。私の全身を言いしれぬ恐怖が駆け抜けました。私は、はじめて自分が死んだことを知りました。それは何と私自身の墓だったのですから。

(3)死は終わりではなかった。

「死んだんだ! 死んだんだ!」

私は、必死に叫びました。そして、

「まさか、そんなばかな!  だって死んでしまったら何も感じないはずだろう? 土くれになるんだろうが? 朽ち果て、腐り果て、それですべておしまい、何も残らない、死んだらもう何の意識もないはずだろう?」

と、くり返しくり返し自分に問いかけました。

たしかに自分の傲岸(ごうがん)な人生哲学がまちがっていなければ、つまり死人の魂が死体が朽ち果ててからも存在し続けるなどということがなければ、そのはずだったのです。

教会の司祭たちは、「死んでも人の魂は存在する」と言っていましたが、それを聞くたびに、愚かな者どもだ、奴らはまちがっている、と私はばかにしていました。奴らときたら、自分たちが"儲け"ようとしてこんなことを言ってのけるのです。

人は再び生き返るのだが、そのとき天国の門を通過する には、冥福を祈ってくれる司際たちがもつ鍵で、門を開けてもらわねばならない。

その天国の鍵は"金で廻る代物"で、司際の一存にかかっているというわけです。

そんな話は、司祭たちの秘められた生活の実態を知っている私には笑止千万でした。そして、できもしない免罪の約束に耳を傾けるかわりにこう言ってやりました。

「死がやってきたら堂々と向き合いますよ。『死とはすべての消滅を意味する』と信じる者ならば誰でもそうするに」と。

しかしいま、私はこの自分の墓の傍らに立って、いとしいあの方が私の名を呼び、花を投げかけるのを見つめているのです。

やがて私には、目の前の墓の固い土盛りが透けて、中が見えだしました。

下のほうに私の名と死亡した日付の刻まれている柩(ひつ� ��)が見え、その柩の中に見慣れた私自身の、白く動かなくなっている遺骸(いがい)を見ることができました。

恐ろしいことにその遺骸はすでに腐り始めていて、顔を背けたくなるような代物になっていました。

私はそこに立って注意深く自分の死体を見つめましたが、今度はいまある自分の体に触れてみました。腕と脚とを確かめた後、なじみ深い自分の顔の作りを一つひとつ手でまさぐり確かめてみました。

私の肉体は死んだはずなのに、私はいまこうして生きているのです。

もしこれが死というものなら結局、あの司際たちは(魂は肉体的な死のあとも存続するという意味では)正しかったわけです。死んでも生きているのですから。

だがどこに? どんな状態で?

そもそもこの暗黒の場所は地獄な� �だろうか?

あの司際たちなら、まさしく地獄以外、私を送り込む先はないと言うでしょう。私は、当時の腐敗しきった教会とは一切縁を切っていました。ですから、もし教会が破門した者を地獄に送る力を本当にもっているなら、私などまずまちがいなくそこに送られる口です。反対に、いとしいあの方などは、たとえ私を捜すためだとしても地獄に来ることは絶対にないだろうと思います。

彼女はまだ地上で生きているようでしたし、私の墓の傍らに彼女がひざまずくのを見たのですから、私もまた地上にいると思わざるを得ませんでした。

(4)肉体と自分を繋ぐ糸

いったい死人は、いつまでも地上で生活した場所のあたりをさまようものなのだろうか?

そんなことをあれこれ思いながら、私� �愛する人の近くに寄ってその手に触れようとしましたが、かないませんでした。見えない壁のようなものが彼女を囲っているようで、ある距離以上には接近できないのです。どんなに試してみても無駄でした。

そこで私は彼女の名を呼んで言いました。自分がすぐそばにいること、意識もしっかりしているし、死んだけれど何も変っていないということを。

しかし、彼女には聞えないようで、私のほうを見ることもありませんでした。

彼女は、まだ悲しそうに泣いていました。そして、やさしく花に触れながら、私のことを花がとても好きな人だったと口にしていました。

あの花は、そのことを知っていて私のために供えてくれたものだったのです。たまらなくなった私は、できるかぎり大声を出して何度も名を呼び� �したが、彼女にはどうしても聞えません。夢でも見ているように方手でさようならの合図をして、彼女はゆっくりと悲しそうに去っていきました。

私はすぐさま、彼女の後を追うとしましたがそれもできません。肉体の置かれている墓から数メートルまでしか離れられないのです。そのわけはすぐわかりました。クモの糸ほどしかない、黒い絹のような糸が私の体にくっついていて、どんなに力を込めても切れないのです。ゴムひものように伸ばすことはできますが、必ず引き戻されてしまいます。

最悪なのは、肉体は腐って崩壊していきますが、それが私の精神をむしばむような感じがすることです。ちょうど毒に冒されたときのように、苦痛をともないながら、脚から全身へしびれが回っていくような感じなのです。

新 たな恐怖に襲われかけたそのとき、威厳(いげん)に満ちた何者かの声が暗闇を通して私に語りかけてきました。

「汝(なんじ)は己の心よりも肉体をより大切にしてきた。さあいまこそ、汝が崇拝し、貴重に思い、執着してきた肉体なるものの正体を知るがよい。その肉体がちりに戻るのを見るがよい。そして肉体の享楽のために汝がどれほど魂をおろそかにし、痛めつけ衰えさせたかを見るがよい。汝の悪しき生き様が、どれほどみじめで無惨で酷いものであったかを知るがよい」

そこで私は、自分自身に目をやりました。そして目の前に掲げられた鏡の中を見たのです。ウォォ! 戦慄(せんりつ)が走りました! そいつはたしかに私自身の姿でしたが、ああ! 恐ろしいまでに変形した、おぞましくも醜悪(しゅうあ� �)な、下劣(げれつ)きわまりない姿をしているではありませんか。体のあらゆる部分が身の毛もよだつような形となってしまい、顔まで変形しているのです。

私は、あまりの自分の姿におののいて後ずさりし、いますぐにでも地面が口を開けて私を呑み込み、世の中のすべての視線から自分を永遠に隠してほしいと祈りました。その瞬間、私は思いました。絶対にもう二度と、あの方を呼ぶことはすまいと。

彼女にこの姿を見せることはできない。私は死んで、もう永久に彼女の元から去ったのだと思われたほうがよっぽどましだ。

ああ、何てことだ! 私の絶望、苦悶(くもん)は計り知れないものでした。すべての人から見て私は死んだ存在でありますが、何ということでしょう、いまや私は、死が終わりのない眠り でも、静かなる忘却(ぼうきゃく)でもないことを知ったのです。もし死がすべての終わりだったら、どれほどよかったことでしょう。

私は絶望のうちに、完全なる忘却が自分に与えられるようにと祈りました。しかし、祈りながらそれがかなわぬ望みであることを知らされました。

人間の本質は永遠の魂です。その魂は、善であれ悪であれ、幸か不幸か、とにかく永遠に生き続けます。人間の肉体は朽ちて塵(ちり)となりますが、本当の自分つまり精神は、朽ちることも忘却することもありません。

私の心が少しずつ目覚めるにしたがって、自分の人生におけるさまざまな出来事が目の前に映し出されていくのが、はっきりと見えるようになりました。


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いまとなっては、そのうちのたった一つでさえやり直すことができない過去の過ちを目の当りにして、私はただ、がっくりと頭を垂れるしかありませんでした。

(5)彼女の部屋にたどり着く

どれほどの時間が経過したかわかりませんが、私にはとても長い時間のように思われました。絶望のなかに打ちひしがれ、しゃがみ込んでいましたが、ふと、特も言われぬやわらかな響きで私を呼ぶ声が、そう、あの方の声が聞えてきたのです。

その声をたどれば声の主にたどり着けそうだ、だからさあ起きて行かなければ、私は心の中でそう強く感じました。

それで私は声にひかれて進んでゆき、� �うとうあの方の家にたどり着きました。彼女は小さなテーブルの横に腰掛け、一枚の紙を前にして鉛筆をもっていました。そして、私の名を呼びながらこう言っています。

「最愛の人よ、亡くなってからでも帰ってくることができるのなら、私の元に来てくださいませ。そして私の質問に答えて、イエスでもノーでも、あなたのほうから私に書かせることができるなら、何でもいいから書いてみてくださいませ」

私は死んでから初めて、悲しそうなあの方の口元に、かすかな微笑(ほほえみ)みを見ました。それから、ふと気づくと、彼女の傍らに誰か三人いるのが目に止まりました。彼らは霊人たちでしたが、私とはまったく姿が違います。三人とも光り輝いていて、その光で目が焼かれてしまいそうで、彼らを見つめること� ��できません。

一人は上背のある、物静かで威厳のある顔つきをしている霊で、ちょうど守護天使のように、あの方の上をおおって守っていました。あとの二人はとても美しい若者で、彼女の両脇に立っていました。

私はすぐに、その二人が誰なのかわかりました。以前、彼女がよく話してくれた、亡くなった彼女の兄弟たちでした。洋々たる人生を前に夭折(ようせつ)したこの二人の思い出を、あの方は胸の内にしっかりとしまっていたのです。

私は、はっとして後ずさりしました。彼らが、私に気づいてこちらを見たように思ったからです。それで私は見につけている黒いマントで、歪んでいる顔や姿を隠そうとしましたが、にわかに自尊心が頭をもたげるのを感じました。

あの方が、私を呼んでくださったので� ��なかった? ならば自分には、ここにいる権利があるはずだ。

「あなたがそこにいらして私の言葉が聞えていらっしゃるのなら、あなたが私のことを考えてくださっていることがわかるように、何か一言書いてくださいませ」

自分の思いを読みとったかのような彼女の言葉を聞いた私は、まるで心臓が喉まで飛び上ってきて窒息してしまうのではと思うほど、どきどきしました。いったい自分にあの方の手を動かせるものかどうか。先ほどは、触れることさえできなかったのです。しかしとにかく試してみようとしたところ、あの背の高い霊人が二人の間に分け入ってきました。

「何か言いなさい。私があなたに代って、この人の手を動かして書きましょう。この人のために、この人のあなたへの愛ゆえにそうするのです� �

彼のその言葉は、私の心を波のように喜びで揺さぶりました。

私のいとしい方がもう一度、「あなた、そこにいらっしゃるの? 私の最愛の人」と言ってくれたので、私が「はい」と答えると、その霊人は彼女の手に自分の手を添えて「はい」と書いたのです。

彼女は、私のために何かしてやれることはないか、私がしてほしいと願うことはないかとたずねてくれました。それで私は「いえ、いまは別に。もう行きます。私のことであなたを煩わしたくありません。私のことは忘れてください」と答えました。しかし、私の心は、そう言いながらも悲しさで張り裂けるようでした。

ところがああ、あの方の次の言葉が何といとおしく私の胸に響いたことでしょう。

「そんなことおっしゃらないで。私は、昔もいま� ��あなたの真実の友です。そうしてあなたがお亡くなりになってからというもの、考えてきたことはただ一つ。あなたを捜し出して、もう一度あなたとお話しすることでしたわ」

そこで私は叫ぶように「私もまたそのことのみを願っていました!」と答えました。

するとあの方は、また来てくれるかとたずねますので「はい」と答えました。

ここまで来てあの光り輝く霊人が「今夜は、これ以上続けてはならない」と言って、それを彼女の手を通して書き出しました。それが書き終えられたとたん、私は、再びあの薄暗い教会墓地にある自分の墓の中の肉体まで連れ戻されるのを感じました。

しかし、このときは少なくとも当初味わったような、絶望的で悲惨な気持ではありませんでした。現実そのものはいまも変わっ� ��いませんが、一条の希望の光が胸の奥から差し出すのを感じたからです。あの方にまた会えるし、話だってできるということが、いまではわかっているわけですから。

(6)彼女にすべてを告白する

ところで墓地には私一人だけではなく、あの二人の兄弟が同行してきました。彼らがそこで私に言ったことのポイントを言えば、次のようになります。

あの方と私の間には埋め尽くせぬ深淵が横たわり、それはあまりにも広大である。そして問題は、まだ若いあの方のこれからの人生を私の暗い影でおおいたいと、私自身が思っているのかどうか、ということです。

もしいま、あの方をそっと一人にしてやれば、いつかはあの方も私のことはあきらめ、かつてそういう最愛の友人がいたという記憶が残る� �けである。私が本当にあの方のことを愛するのであれば、あの方の若い人生を孤独な寂しいものにしたいとは、当然願わないはずである、と。

私は、彼らに答えてこう言いました。あの方を愛している、あの方をあきらめることなどできない。いままでどおり彼女を愛し続けることしか私には考えられない、と。

すると二人は、私や私の過去について語り始めました。

私がいま希望を見出しているあのおぼつかない方法を使って、どうしてでも彼女の無垢(むく)な人生に関わりをもちたいと本気で考えているのか、とたずねてきました。また、あの方が死んだ場合、汚れた私などがどうやってあの方と会うことができようか、と言うのです。

私はそこで弱々しく、あの方は私のことを愛していると思うと言いました� �

すると彼らは言いました。

「そのとおり。彼女は自分の心の中であなたを理想化し、無垢な心のままにあなたのイメージを描き、それを愛しているのです。もしあなたの一切を知ったなら、それでもあなたを愛すると思いますか? 彼女に自由な選択肢を与えるべきです。本当に彼女を愛し、彼女のためを思うならば、何が彼女に真の幸福をもたらすのかを考えるべきです。自分のことだけを考えるべきではありません」

彼らの言葉で私の内なる希望は打ち砕かれ、悲嘆と恥ずかしさで、頭を垂れるしかありませんでした。まさしく自分は下衆(げす)野郎であって、あの方にふさわしくないことは明白なのです。そして、私から解き放たれたあの方の人生がどのようなものになるか、鏡で見るようにはっきりとしていまし た。

人生において初めて、私は自分以外の人間の幸福を先に考えることになりました。私はあの方のことを心から愛していますし、彼女には本当に幸福になってほしいと思いましたから、彼らにこう言いました。

「そのようにいたしましょう。あの方に真実を告げてください。そして私にはお別れのやさしい言葉の一つでも言ってくだされば、彼女から去って、もう二度と私の暗い影をあの方の人生に投げかけることはいたしません」

私たちがあの方の部屋に戻ったところ、彼女は悲しみのあまり、すっかり疲れ切り、寝入っているようでした。

私は彼らに、最初で最後の接吻(せっぷん)をしたいので許してほしいと頼みました。しかし、彼らはそれはできないと言います。ひとたび私があの方に触れようものなら、 彼女の生命の糸が永遠に切れてしまう、というのです。

それから兄弟たちは彼女を起こし、彼らの言葉を書き出していきました。

私は傍らに立って、その一つひとつの言葉を聞きました。それはまるで、私の最後の望みを埋葬(まいそう)するための、柩に打ち込まれる釘のように感じられました。あの方は夢を見ているように、私の恥辱(ちじょく)に満ちた人生のすべてを書き続けました。そして最後に、今度は私自身が、これで二人の関係は永久に終わり、私の利己的な愛から彼女は解き放たれたことを告げねばなりませんでした。


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私は最愛のあの方にお別れを告げました。それは、心臓から血を搾(しぼ)り取られるようなむごい痛みをともなう言葉でしたが、何とか告げることができたのです。それから私は、向きを変えて彼女の元から立ち去りました。

どころが、どうしてかはわかりませんが、そこから離れて進むうちに、私を墓場にある肉体に結びつけていた魂の糸が切れて、自由になっていることを知りました。

もう私は、どこへでも自由に行けるのです。

私はいま、こうして自分の言葉を書いていますが、(著者はいま、霊界からの自動書記で書いている――訳者)、次に起こったことを思いだすといまでも感謝で涙が目にあふれ出� ��そうになってしまいます。

そのとき、あれほど弱々しくやさしく思えたあの方が、突然、誰も抗うことのできないほど強い愛の力をこめて私を呼び出してくれたのです。あの方は、私が彼女を愛するかぎり、決して私のことを忘れることはないと言ってくださいました。

さらに、こんなふうに語りかけてくれました。

「あなたの過去はどうでもいいの。たとえあなたが地獄の底まで落ち込んだとしても私はあなたを愛し続けます。あなたのことを捜し出し、あなたを愛する者として当然のことをさせていただきます。愛する私の当然の権利として、神が慈悲(じひ)をもってあなたの過去の過ちを許し、再びあなたが立ち直るまで、あなたを助け、慰め、大切にしてさしあげたいのです」

この言葉を聞いた瞬間、私は� ��その場で泣き崩れました。

締め付けられ、傷つけられ、かたくなになっていた私の心は、やわらかでやさしいあの方の愛の手に触れて、感謝の涙で癒(いや)されたのです。

私はあのいとしい方の元に急いで戻り、彼女の横にひざまずきました。もちろん、あの方に触れることは許されませんでしたが、あの物静かで美しい守護霊は、彼女の祈りが聞き入れられたこと、今後は私を光の元に導くように努めなさい、と彼女に告げたのです。

そうして私は、再びあの方が私を呼んでくださるのを待ちながら、この霊の世界を放浪する身となりました。

(7)地表の霊界をさまよう

このころ私は、何か暗闇の中をさまよい漂(ただよ)っている、私と似た存在が他にもあることに気づいていました。た� ��し、それが何であるかを見ることはまだほとんどできませんでしたが。

あるとき、あまりの孤独に耐えられなくなり、あの慣れ親しんだ墓地に戻ろうかと思いたちました。すると、その思いが私をそこに連れ戻したようで、まもなく私は墓地に来ていました。あの方が以前もってきてくれた花は、いまは枯れていました。

もう二日間、彼女はここに来ていません。それは、私と直接話ができることがわかったからで、地面の中に埋葬されている私の肉体のほうは忘れてしまったようです。死んだ私の肉体のことは忘れ、生きている霊に思いを向けてくれるほうがありがたいので、彼女をそのままにしておきたいと思いました。

墓の前方にある白い大理石の十字架のあるあたりに近寄ってみますと、そこにあの方の二人のご� �弟の名前が刻まれているのを発見しました。それで、あの方が私への愛ゆえに何をしてくださったかがわかりました。

この世で誰よりも大切にした二人のご兄弟の傍らに、この私の肉体を埋葬してくれたのです。私は、その彼女の心に打たれて、また涙があふれてきました。その涙のしずくは、私の心の辛い思いを癒してくれるようでした。

それでも、一人さまようことが寂しくてやりきれなくなった私は、とうとう墓地を出て、あの暗い影がふわふわしている中に入っていきました。

ほどなく一人の男と二人の女らしい黒い影が、いったん私の近くを通り過ぎたと思うと、振り返って近寄ってきました。男が私の腕に触って、

「どこへ行くんだい? あんたこの世界にゃ慣れてねえようだな、そんなに忙しそうにし� �よ。誰もここで急ぐ奴などいねえよ。ずっとここで過ごすしかないってことを知ってるからな」

と言って笑いました。その笑い声があまりに冷たく、下品な響きなのに私はぞっとしました。もう一人の女は私の腕を取り、

「いっしょに来なよ。死んでからでも、まだ人生の楽しみは終わっちゃいないことを教えてあげるよ。肉体がないからって楽しめないわけじゃない、ちょっと地上の人間の体を借りりゃいいのさ。来なってば、楽しみはまだ尽きたわけじゃないってことを見せてあげるよ」

と言いました。

私は一人ぼっちだったので、誰でもいいから話し相手が現れたことはうれしかったのですが、この三人の姿はどれも顔を背けたくなるほどひどいものです。

とくに二人の女のほうは、男よりもっとすさまじ� ��格好をしていました。それでも、これから何が始まるか見てみたくなり、彼らについて行こうとしました。すると、はるか遠くの真っ暗な空に、光で描かれた絵のように、あの方の姿が見えたのです。

彼女は目を閉じていましたが、以前と同じようにその腕は私に向かって伸びていて、天から彼女の声が響いてきました。

「だめ! 気をつけて! その者たちといっしょに行ってはなりません。彼らの道は、ただ破滅のみに通じているのです!」

それでヴィジョンは終わりました。私は夢から覚めたように三人を振りほどくと、暗闇の中に逃げ込みました。

それから、どれほどさまよい歩いたかわかりません。ただ私にまとわりつく忌(い)まわしい影から逃れようと、やみくもに歩きました。そのうちに疲れ切った� ��は、休むのによさそうな地面を見つけて、しゃがみ込んでしまいました。

しばらくそうして休んでいると、暗闇を通して光がかすかに瞬(まばた)くのが見えました。近づいてみると、それはある部屋から出ている光でした。その光があまりに明るくて、見続けることができず目を背けると、声がしました。

「お待ちなさい、疲れた放浪者よ! ここには親切で、あなたの助けとなる者たちだけがいます。もしあなたが、いとしいあの方に会いたいと思うならここにお入りなさい。彼女はここにいますよ。あなたとお話しすることもできますよ」

すると誰かの手が、私のマントで強い光を遮(さえぎ)り、部屋の中に通してくれて、大きな椅子(いす)に座らせてくれました。この部屋には平安が満ちていて、何か天国ま� �通じていそうな感じがしたものでした。しばらくして見上げますと、天使のような印象を与える、おだやかで親切そうな女性がいて、その人の向こうに、何と、あのいとしい方が微笑みながら座っているではありませんか。

ただし、あの方は笑みを浮かべているものの、私を見ているわけではないことがすぐにわかりました。かわりにその天使のような女性が、低いおだやかな声で私のことをあの方に向かって話し始めたのです。

あの方はそれを聞きながら、以前出会ったことのあるスピリチュアリストが「あなたの愛は死の障壁さえ打ち破るほど強く、あなたこそ彼(フランチェッツォ)を愛し助ける最適の人物である」とアドバイスしてくれたことを思いだしているふうで、とてもうれしそうでした。

その天使のような 女性が私に話してくれたところでは、本人はまだ生きていて、天使ではないということでした。まだ地上で肉体をもっているスピリチュアリストなので、あの方と話をすることができたというわけです。

しばらくすると、私にこの部屋に入るように勧めてくれた霊人の声が、あの方へのメッセージを書いてほしいかどうか、たずねてくれました。

私が「もちろんです、せひお願いします」と言って語り始めますと、スピリチュアリストの女性を通して筆記が始まりました。

私は愛するあの方に自分が生きていること、ずっと愛していること、私を忘れないでほしいこと、私のことを思い続けてほしいことなどを伝えました。あの方の愛と助けがあってこそ、私はがんばれるのですから。

いま自分は、はかなく頼りない存 在となってしまい、彼女には見えなくなっていますが、それでも彼女に対する思いは以前と何ら変わることはありません。その思いを何とかして伝えたかったのです。筆記を見たあの方は、とてもやさしい言葉を返してくれました。それをここに書き表すことは、二人の秘密なのでできませんが、あまりにも神聖で、永遠に私の心に残る言葉でした。

その後、部屋を出た私は、地べたに崩れ落ちるようにして眠ってしまいました。まわりにすべてが夜の闇に感じられる私にとって、どこで眠るかはどうでもいいことなのです。また、どれくらい眠っていたのかもわかりません。

すっかり疲れ果て、苦悩と惨めさにさいなまれていた私には、意識のない眠りは、救いにも似たものだったのです。


さて、深い眠りから覚めてみると私は大いに元気が戻っていて、それ以前と比べてすべての感覚が強くなっていました。早く動くことができるし、手足は力強くなり、ずっと自由になったのです。

それとともに、この世界に来てから感じたことのなかった空腹感を覚えました。空腹は強まるばかりなのでしかたなく食物を探しに出かけましたが、初めは何一つ見つけることができませんでした。

そのうちやっと、乾燥したパンのようなものを何片か見つけて食べました。それは食べ物ともいえないような粗末なものでしたが、腹の足しにはなりました。

そうです。霊といえども、地上の食物に相当するような霊的な食物を食べるのです。腹も減れば、喉も渇くのです。たとえ見� ��ない体でも。地上のみなさんが感じるような食欲もちゃんとあるのです。

もちろん霊的な食べ物や飲み物は、霊を見ることのできない人には見えません。しかし、私たちは霊人にとっては、きわめてはっきりとした現実なのです。しかも、食べ物の好みは、地上にいたときの好みと関係があるようです。

もし私が地上にいたとき大酒飲みや大食漢(たいしょくかん)であったなら、この世界に来て、もっと早くに酒や食物に対する欲求を感じていたでしょう。幸いにも私はそういう種類の人間ではなかったので、少し食べただけですぐに満足することができました。

それでも最初は、そのパンきれみたいな食物を目の前にして「こんなもの食えるか」という思いもありました。何度となく招かれた宴で、美酒や美食を楽し� �できた私です。大食漢ではなくても、食べ物の味くらいはわかります。

しかし、よくよく考えてみれば、いまの自分は、どこからも何も手に入れることのできない乞食(こじき)のような存在です。ならばとりあえず、乞食のような暮らしに満足するしかないじゃないか、と思い直したのでした。

(8)「希望の同胞団(どうほうだん)」に入団

再び私があの方のことを考えていると、その思いが私をあの方の元へと運んでくれたようでした。ベールのようなものを透かして見ると、そこには男性の霊人と地上の女性、それにあの方がいました。今回も、以前に私の言葉を筆記してくれた女性にメッセージを書いてもらうことができると知らされました。

私は、できるなら、あの方自身に私のメッセージ を書いてもらいたかったので、それを許していただきたいと強く願いました。

ところが残念なことに、それはできない相談だとわかりました。あの方には私の言うことはまったく聞こえないのです。それならしかたないとあきらめ、以前のようにあの女性に書いてもらうことにしました。

メッセージを言ってからしばらくの間、かつて幸せな日々にそうしていたように、あの方のやさしい顔を見つめていました。

しかしその状況は、一人の男性の霊人によって遮られました。

この霊は、私の見るところ、若くて美しい、しかも威厳(いげん)のある方でしたが、静かなやさしい声でこう言うのです。

「フランチェッツォ。もしあなたが本当に、この女性に直接自分の言葉を書いてほしいと願うなら、霊界にある『� �望の同胞団』に入団なさい。この同胞団の人々は、みな善の道を追求しています。あなたがまだ知らない新しい事柄も、彼らとともに学べるでしょう。同胞団の人たちは、あなたが彼女の心に働きかけることができるくらい自分を高めるのを、きっと助けてくれるはずです。そうしてあなたが自分を高め続ければ、やがては、地上にいる彼女がその生を終えて霊界にやってきたとき、ともに過ごせるようになるでしょう。けれど、そこに至る道は生やさしいものではありません。むしろ大変な苦労と苦難をともなうものです。それでも、この道だけが、最後に美しい幸福な世界へ導くものであり、そこではいまは想像できないほどの幸福と安息を享受(きょうじゅ)できるとお約束しましょう」

この霊人はさらに、私のいびつな体も� �神が向上するにつれて直っていき、最後には元の姿を取り戻すこともできるので、あの人が見て悲しむことはなくなると保証してくれました。

また、もし現在の状態のまま私が地表にとどまり続けていると、十中八九はいわゆる享受の巣窟(そうくつ)に引き寄せられてしまい、やがてそこの低劣な霊的環境に染められてしまうだろう、と心配してくれたのです。ほんの少し前に、ふらふらと享受を求める霊たちについて行きそうになった自分としては、そう言われてもしかたないと恥ずかしく思いました。そして、低劣な霊の仲間入りをすれば、あの方のそばにいることもできなくなってしまうはずだ、と警告してくれました。私の精神が向上しなければ、彼女を守護する者たちが私を締め出さざるを得なくなるというのです。

< p>反対にもしこの同胞団に入れば、いろいろな援助を受け、力を授かり、新しく多くのことを学ぶので、やがて地表の霊界に戻るときがきても、そこで出会う誘惑を押しのけ克服することができるとも教えてくれました。

私は、この礼義正しく威厳に満ちた霊人の語る話に魅了されました。

同時に、希望の同胞団についてもっと知りたいという気持ちにかられ、ぜひ同胞団に連れて行ってほしいと願い出たのです。彼はそれを承知してくれ、いつでもここを去ることができると告げてくれました。

この男性の霊が言うには「霊界ではすべてが自由」なのだそうです。

「どの霊人も、おのれの願いや欲望が向かうところへ行くようになっています。もしあなたが、高尚な望みをもてば、望みを実現するための手段が示され� ��必要な援助や力も与えられるでしょう。それによって強くなることができるのです。

ところで、あなたは祈りの力について何も知りませんね。

いまからそれを学ばなければなりません。この世界のすべては、熱心な祈りの結果、現れるものだからです。あなたの浴することは善であれ悪であれ、祈りと同じ意味をもち、その欲する内容に応じた力を呼び寄せることになるのです」

ここまで語ったところで、私が疲れて弱ってきたのを見たのでしょう、彼は、しばらくの間あの方に別れを告げるようにと言いました。私はこれから同胞団に行ってもっと力をつけねばならないし、その間に彼女にも、同じく力をつけさせねばならないというのです。

彼女は今後三ヶ月間は自動書記をしないほうがいい、それはこのところ� ��いた招霊で、彼女の霊的な力が著しく弱まってしまったからだと言いました。もし休まないでいると、あの人自身が大きく損なわれてしまうそうなのです。

ああ、このように離別の約束をすることは、私たちにとって本当に辛いことでした。しかし、あの方が潔くそう決意するものですから、私も従わないわけにはまいりません。あの方がもっと強くなろうとしているかぎり、私もそれを見習うべきでしょう。

そこで、私は一つの誓いを立てました。すっかり神のことは忘れてきた自分ですが、それでも神が私のことを思いだしてくださり、赦(ゆる)してくださるのなら、私は全身全霊で自分が過去に犯してきた過ちを正すことに努めますと。

新しい案内役となったこの男性の霊人とともに部屋を去るとき、もう一度私� �振り返り、いとしいあの方に手を振って別れの挨拶をしました。そして、善の天使たちと神ご自身があの方を祝福し、ご加護を垂れてくださるようにと祈りました。

最後に見たものは、私が去っていくのを見送る、あの方の眼差しでした。

それは、その後私がたどる辛く厳しい日々を通じて、いつも支えとなってくれた、愛と希望に満ちた眼差しでした。

『誰も書けなかった死後世界地図V』P14〜51

2章 死後世界探索への旅が始める



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